いじめ問題は解決したのか

いじめ問題が社会的にクローズアップされ、学校はいじめ問題にずいぶん敏感になりました。近年、各学校では「いじめアンケート」を実施しています。もし、「いじめられている」の欄に〇がついている生徒がいれば、すぐに本人を呼んで聞き取りをする等の対応をしています。 

私はこの「いじめアンケート」があまり好きではありません。理由は、いじめられている自分をみじめに感じてしまう子や、学校に伝えても仕方がないと判断し「いじめなし」と書いて提出する子の存在を知っているからです。

悪口を言われた」とか「物を隠された」のようないじめであれば、この種のアンケートには書きやすいでしょう。しかし例えば、恐喝のような犯罪レベルのいじめだとどうでしょうか。被害者は加害者からの報復を恐れ、正直には書けないケースがほとんどです。

これは文部科学省による平成30年のいじめの認知件数です。全国の小中高などで平成30年に認知されたいじめは、前年度から約13万件増加し、調査時には54万3933件と過去最高になっています。

これを見ると小学生のいじめ件数の伸びが著しく心配になります。しかし「悪口を言われた」のようなものもいじめの件数としてカウントするならば、小学生にはささいなことでも報告する素直さがあります。そのことを考慮しつつ数字を見ていく必要があります。

これは小学生のいじめを軽く見ているわけではありません。実際に心身に大きな被害を受けるなどの重大事件も602件と過去最高になっている厳しい現実があるからです。

「いじめアンケート」は一定の効果を上げています。しかし、アンケート結果だけに安心せず、SOSが出せないほどに追い込まれた子どもへの配慮も同時に必要です。

日頃脅されていて恐喝まがいの被害を受け、加害者からの報復を恐れる状況の中では正直に記入することなどできないからです。

いじめは日本だけの問題なのか

人間のこころには「妬み」や「嫉み」などの感情があります。人が集まるところでは、人間関係のトラブルと無縁ではいられません。「いじめ」は英語で「bullying」です。ことばが存在しているということは日本以外の国にもいじめはあるということです。

どうして人をいじめてはいけないのか

「どうして人をいじめてはいけないのか」と問われて、その理由を子どもにどう伝えますか?

「相手が嫌な思いをするから」という答えでは不十分だと思っています。いじめは「人生を狂わせる」のです。

いじめ体験によって、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こしたり、こころの成長を大きく阻害された人はたくさんいます。また、人が怖くなったり、外出が怖くなったり、場合によっては神経症や精神疾患の引き金にもなります。

「いじめは人生を狂わせる」という点から、どんなことがあってもいじめは根絶せねばなりません。

だれに対していじめ防止への働きかけをするのか

いじめられやすい子どものパターンや情報は、クラス編成やグループ分けなど、大人側で環境調整できる場面で活用されます。

反対にいじめる子どもに関しての典型的なパターンはありません。ということは、加害者側のハイリスクパターンを見抜いて防御することは難しいのです。

では、効果的ないじめ防止には、どの層の子どもに働きかけたらいいのでしょうか。

いじめの構造を考えたとき、被害者の外側に加害者、そしてそのまわりには傍観者層の存在があります。いじめに関しては、当事者同士への指導もさることながら、この傍観者層への働きかけが大きな鍵となります。

内部告発は正しい

いじめを傍観することは、「私には関係ない」という意思表示です。と同時にそれは加害者の暴走を許してしまうことにもなります。傍観者層から早期に情報提供があれば、初期段階で解決できる例は多いだけにとても歯がゆく感じます。

つまり「内部告発は正しい」という道徳教育がいじめ防止への大きな鍵になります。このことは学校を越えて、企業、社会のあり方をも変革します。

^

内部告発は命がけ

大人の世界と同様に、子どもの世界であっても「内部告発」は命がけです。情報を提供したことが明るみに出ればまわりからは「チクリ」という扱いを受けます。下手をすると次に自分がいじめられてしまうリスクも背負います。子どもたちはそれを知っているので「見て見ぬふり」をします。

ただ少数ながら自分の良心に従って正しく行動できる子はいます。友だちが困っていることを教師に相談してくれる存在です。この貴重な情報によって問題が小さいうちに解決できるケースは多いのです。

大人のがんばりだけではいじめは防ぎきれない

教師集団が一致団結して「どんなに小さいいじめも許さない」という姿勢で向き合うことは基本です。ですが、大人の頑張りだけでは限界があります。なぜならば子どもたちには子どもたちだけの世界が存在するからです。

この見えない世界で起こるいじめとどう関わるか。「見て見ぬふりをしない」ことがいじめ防止の鍵なのです。そして勇気を持って正しい行動をした子どもを守り抜くことは大人の責務です。もしかすると彼、彼女たちの行動はいじめを苦にして自ら人生を閉じようとした子どもを救ったかもしれません。「内部告発は正しい」ことを学校教育の中で伝えていくことは大変意義のあることだと思います。

中学生による5000万円恐喝事件を覚えていますか

最近のいじめ方は非常に悪質で巧妙です。大人の想像を遥かに超えた犯罪に近いものも多数存在します。そして標的になっている子どもは完全に孤立していて、援助を頼むことすらできません。中学生による5000万円恐喝事件などはその典型でしょう。

友人にも教師にも親にも相談できず、また盗んだお金の一部を与えられたことで被害者から共犯者になってしまい、さんざん利用されもてあそばれた挙句、いらなくなればポイ・・・という一連の流れは大人の想像をはるかに超えています。

学校を超えて社会の在り方を変革する

いじめはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因になるということをまわりの大人がしっかり認識すべきです。子どもを守ることに躊躇は不要です。同時にいじめに対して見て見ぬふりをしない子どもを育てていくこともとても大切です。「内部告発は正しい」という考え方が世の中に浸透していくことは、学校のみならず社会の在り方をも変えていくことにつながります。